「もしも、あの時こうしていれば・・・」
「もしも、あの時あんなことしなければ・・・」
そう思ったことは誰しもあるはず。もしも自分のした選択を変えることができたら、やり直すことができたら、結果的にあなたの思い描く未来に辿り着くことができるのでしょうか。
岩井俊二原作のテレビドラマをシャフト制作によってアニメ化した映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』は、そんなもしもの世界を繰り返すことで描かれる少年少女の成長と恋路の物語です。アニメオタクの間では言わずと知れた制作会社「シャフト」と新房昭之監督のタッグで制作される作品は、特徴的な構図や無機質な描写、謎の多い展開など独特な切り口で描かれることで有名です。しかし、シャフト制作による今回の映画が楽しみな反面、この作風が世間に受け入れられるかどうかという心配も少なからずありました。
細田守や新海誠を筆頭に、近年「アニメ映画」というジャンルがいわゆる一般の人(普段アニメを見ない人)にも受け入れられるようになり、ジブリ以外のアニメ映画がメディアにも大きく取り上げられるようになりつつあります。同時にアニメ表現に対しての世間の厳しい言葉も少なくありません。よく耳にする「非現実的すぎる」「結末がよく分からない」という言葉も、そもそもアニメというものは創作物・想像物であってフィクションなのだから、アニメ慣れしている人からすれば、そこにリアルを求めたり答えを求め過ぎること自体ナンセンスな気がするんですけどね。ファンタジーに対して現実的じゃないっていう意見は矛盾してるのです。
『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』も、賛否両論というか否定的意見を多く受けてしまいました。特に物語の結末については「よく分からない」という声が多く、アニメオタクの私もあのラストシーンは難しいなというのが正直な感想でした。同時に、難解ということは「考察しがいがある」とも言えるわけで、とりあえず今回は「映画のラストシーン」にスポットを当て、アニメオタクとして映画ブロガーとして考察してみようと思ったのですが、これがもう大変で・・・。
『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』の考察がまとまらず、自分がもしもの世界をひたすら彷徨ってる。考え過ぎで熱でそう。
— いなみ@映画ブログ (@waku2trailers) August 7, 2020
名作『寄生獣』の田宮良子の言葉を借りて言えば、
「1つの疑問が解けるとまた次の疑問がわいてくる。始まりを求め、終わりを求め、考えながら、ただずっと歩いていた。」
まさに、こんな感じ。
でもなんとか「ひとつの答え」が出たような気がします。もちろんネット上にはたくさんの考察があり、私の答えが「本当の答え」ではないのかもしれませんが、私なりに必死に導き出しました。参考程度に、自称映画ブロガーの戯言と思って暖かい目で読んでいただけたら幸いです。
目次
『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』ってどんな映画?
岩井俊二監督で1995年に公開された実写映画をアニメ化して制作。母親の再婚をきっかけに転校することになったなずなを救うべく、時空を超えて何度も奮闘する典道のタイムトリップを描く。
引用元:MIHOシネマ
【作品情報】
総監督: 新房昭之
監督:武内宣之
脚本:大根仁
原作:岩井俊二
出演:広瀬すず、菅田将暉、宮野真守、松たか子、花澤香菜
主題歌:DAOKO×米津玄師『打上花火』
制作会社:シャフト
公開:2017年
問題のラストシーンをおさらい
※以下、ネタバレを含みますのでご注意ください。
まずは『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』のラストシーンについておさらいしておきましょう。
典道やなずなが何度も繰り返した8月1日の花火大会の日を経て夏休みが終わります。新学期(おそらく9月1日)がスタートし先生が出欠確認をとり始めますが、典道の名前を呼んでも返事はなく、なぜか教室には典道の姿がありませんでした。もちろん、なずなの姿もそこにはありません。その後、学校や灯台、野原に咲くナズナの風景が映し出されてエンディングを迎えます。
典道はどこへ行ってしまったのでしょうか?
なずなは本当に転校してしまったのでしょうか?
物語の結末を見る側に委ねるラストシーン、結末に答えを求める人にとっては嫌な終わり方ですよね。賛否両論が生まれるのも頷けます。
では、問題のラストシーンの答え「典道が教室にいなかった理由」とは、なんだったのでしょうか。
結論:典道はなずなと別れた海の岩場で空を眺めている
映画のラストシーン、典道が教室にいなかったのは「典道はなずなと別れた海の岩場で空を眺めていた」からです。
これが私の辿り着いた結論です。
典道はちゃんと生きています。なずなと駆け落ちしたわけでもなく、転校したなずなを追いかけていったわけでもなく、はたまた「もしもの世界」に閉じ込められたわけでもありません。8月1日、あの花火大会の日、なずなと両想いだったことにやっと気付けた矢先、彼女との別れが訪れて心に傷を負いながらも、典道は何とか前を向いて上を向いて生きているのだと思います。そして、なずなが亡くなった父を想い空を見上げていたように、典道もなずなと別れた「海の岩場」で彼女を想い空を見上げているのではないでしょうか。
そして、茂下町になずなはもういません。原因は転校ではなく、8月1日を終えて結果的に「そもそも茂下町になずなが来ていない、もしくはなずなが存在すらしていない世界線」となったからです。このことを典道だけは認識しています。映画で描かれていたように、もしも玉の影響で世界が改変されても典道だけは覚えているからです。自分しか知らない存在したはずの人を想い続ける、切ないですね・・・。
それでは、私が「もしもの世界」に迷い込むかの如く悩まされたいくつかの疑問点を考察する形で、この結論に至った経緯を解説していこうと思います。
ラストシーンでなぜ「典道」は教室にいないのか
可能性として、典道が教室にいなかった理由について考えてみました。
- なずなと駆け落ちした
- 転校したなずなを追いかけていった
- 死んでしまった
- 「もしもの世界」に囚われて“いなくなった”
- 茂下町で生きている
1と2の可能性について、典道の動機は想像がつくと思います。
3の可能性については、最初に典道がなずなと祐介とプールで競争したときの出来事です。折り返し地点で典道が足をぶつけた衝撃で「もしも玉」がプールに落下し、目の前でもしも玉が発光しました。このとき典道の身に何かが起こり溺れてしまったのではないかと考えました。要するに、この時もしも玉が発光した瞬間から「もしもの世界」が始まっていたのではないかということです。プールのシーン以降は典道の空想世界、いわゆる夢オチというやつです。
4の可能性は、3の段階で死ぬことはなかったけれど、もしも玉が発光したことで典道は「もしもの世界」に囚われてしまったのではないでしょうか。「もしもの世界」つまり「もしも玉の中」に魂が入ってしまったのです。(まどマギのソウルジェムに似たイメージ。)もしもを重ね目的に辿り着いた終盤では世界がまるでもしも玉の中にあるかのように描写されているのも、典道がもしも玉の中に囚われているからだと思います。最終的にもしも玉が破裂し、もしもの世界が崩れ始めたことで、典道の魂(命)は「もしも玉」と共に失われた。もしくは、もしも玉の世界に閉じ込められたのかもしれません。どちらにせよ、この不可解な現象によって死んだというよりは、なずなの父と同様“いなくなってしまった”という結果になってしまったのです。
と、1〜4まで考察をしてみましたが、これってよくよく考えてみたら、1〜4って絶対にありえないんですよ(←おい)。多少関係はしているのかもしれませんが・・・。
なぜなら、もし1〜4だった場合は典道がいないことに親が気づかないはずがない。典道がいないことに親が気付いていれば、学校にも連絡がいくはずで、先生が出欠確認で典道の名前を何度も呼ぶことはないわけです。さらに花火大会の日から2学期開始まで1ヶ月近くあり、会いに行くなら1ヶ月の間にもう行ってるはずなんですよね。となると、必然的に5が教室にいなかった理由となるわけです。
ラストシーンでなぜ「なずな」は教室にいないのか
可能性として、なずなが教室にいなかった理由について考えてみました。
- 転校した
- 存在が消えた
1の可能性については、映画を見ていれば分かりますよね。
では、なぜ2の可能性を考えたのか。これには「なずなの父」が関係しています。
もしも玉を持っていた「なずなの父」
映画の中で、いなくなった(亡くなった?)とされている「なずなの父」がもしも玉を握っているシーンが出てきます。なずなの父ももしも玉を所有していたのですね。なずなの母が最初に結婚していたときの浮気相手が彼であり、その子供(なずな)を妊娠したがために駆け落ちして茂下町に来たという話、これがもしも玉による過去改変の結果だとしたら・・・。もっと言えば、なずなの母が妊娠すること自体がもしも玉の影響を受けていたのだとしたら・・・。典道がもしもを願う前から、すでにこの世界は「もしもの世界」だったということなります。そして映画の終盤でもしも玉が壊れてしまったことで、なずなの存在もしくはなずなが茂下町に来ること自体がなかったことになってしまったのかもしれません。それをなずなは感づいていたから、最後に典道に「次会えるの、どんな世界かな」と伝えたのだと思います。壊れてしまった、なかったことになってしまったこの世界線ではもう会うことはできないんですね。それでもいつかどこかで会えることを願い、この言葉を典道に残したのでしょう。
ちなみに小説版では、なずなの父はサーフショップを営んでおり、海に訪れた初心者サーファーが溺れていたのを助けようとして亡くなったようです。映画では、帽子をかぶっており駅員さんのような服装をしていたので、職業も死因も小説版とは違う設定なのだと思います。海に浮かび亡くなっている描写から推測するに、なずなの母との関係を修復しようともしも玉で何度も改変を試みるも、その行為自体に疲れてしまい、結果的に自殺してしまったのではないでしょうか。
「もしも玉」とは何だったのか
あくまで可能性を見ることができるだけの玉、過去を改変することのできる玉(世界線移動によるパラレルワールドまたは同一世界線によるタイムトラベル)、魂を幻想の世界へと閉じ込めてしまう玉。
もしも玉に関する考察は諸説ありますが、私は「過去を改変することのできる玉(同一世界線によるタイムトラベル)」ではないかと思います。なぜなら、もしも玉を利用した時に「時間が巻き戻る」描写があるからです。「もしも(if)」とは言っていますが、それは「もしもこうだったら」という願いを現実にする能力だと思うのです。ただ、過去を改変することで世界が捻れておかしくなるという副作用のリスクもあります。力に頼りすぎると、例えば花火が平べったくなったり、だんだん世界がおかしくなってしまうのですね。
「もしも玉」には契約関係が存在していて、それは典道であり、過去で言えばなずなの父であるわけです。なにをきっかけにして契約となるのかまではわかりませんが、典道の場合は、プールで足をぶつけた衝撃でもしも玉がプールへ落下し玉が発光したときなのだと思います。そして、この契約関係を持った人間はある能力を手にするのです。世界が変わっても変わる前の出来事を記憶する力です。(そう!リーディングシュタイナーです!)だから典道だけが、もしもの世界を願い過去を改変しても、その前の出来事を覚えていたんですね。おそらくこれはなずなの父も同じでしょう。
典道の世界は「戻ったのか」「辿り着いたのか」「壊れたのか」
8月1日にもしも玉が割れたことで、典道の世界は結局どうなったのか。
- 改変前の元の世界に戻った。
- 改変を経て求めた世界へ辿り着いた。
- もしも玉と共に典道の世界も壊れた。
私は1が有力だと思います。厳密には、元の世界だけどなずなはいない世界に戻った、のでしょう。それは先ほど説明したように、もともと最初に「もしもの世界」を願ったのは、なずなの父であり、もしも玉が割れたことで、すべての過去改変(もしも)は元通りになったからです。
映画を見た人の数だけ「答え」はある、それが醍醐味。
うまくまとめられたかは自信ありませんが、以上の考察を経て私は「典道はなずなと別れた海の岩場で空を眺めている」という結論に辿り着くことができました。
今回ご紹介した考察のほかにも、「冒頭の水中のシーンについて」「祐介は最初なずなと典道をくっつけようとしていたのではないか(改変以降になずなへ好意を持ち始めた)」「2学期の教室で祐介の不満げな顔が気になる」「そもそも茂下(もしも)という町の名前があやしい」など気になることや考察途中のものもあるのですが、広げすぎてまとめるのが大変なので、今回はここまでということで。また時間ができたら、まとめたいと思っております。
間違いや矛盾があるかもしれませんし、抜けている部分もあるかもしれません。(気付いたら加筆・修正する予定です。)お気づきの方がいましたら、お気軽にブログコメントやツイッターを通して、ご意見いただけると大変嬉しく思います。そうやって「あーだこーだ」と議論を交わすのが楽しいのです。それにこれは私の考察であって、人によって全く異なる考えを持っていることは当然あると思っています。でもそれこそが『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』の醍醐味であり、まさに「もしも(if)」というテーマに繋がっているわけです。ラストシーンに明確な答えがないことの「楽しさ」を、この記事を通して感じていただけたら嬉しい限りです。
では最後に、9月1日二学期が始まった日に典道がもしもこうだったらと私なりに想い描いたラストシーンを想像しながら、DAOKO×米津玄師が歌う主題歌『打上花火』の一節で締めくくりたいと思います。
「あの日見わたした渚 今も思い出すんだ
砂の上に刻んだ言葉 君の後ろ姿」
長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。
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