※この記事はネタバレを含みます。
「東野圭吾原作の映画」と聞くと、とりあえず見てみたい!という人は少なくないと思います。これまで数多くの作品が映画化されてきましたが、そんな中でも「東野圭吾史上最も泣ける感動作」とされるのが『ナミヤ雑貨店の奇蹟』であります。ナミヤ雑貨店を中心に描かれる群像劇が、物語進行とともにパズルのピースが埋められていくように1つのカタチへと完成されていく展開は鳥肌必須です。
ほぼ原作通りに映画化された『ナミヤ雑貨店の奇蹟』ですが、一部オリジナル要素の追加や約2時間という限られた時間に収めるためにカットされた部分もあるため、少し分かりづらい部分はありました。その中で特に気になるのが、成海璃子演じる「皆月暁子(アキコ)」という存在。ナミヤ雑貨店の店主「浪矢雄治(ナミヤ)」の前に幽霊?として度々登場するにも関わらず、その詳細はあまり明かされないままでした。
そしてもう一点、奇蹟が起こる12月20日のため「ナミヤ雑貨店相談窓口 一夜だけの復活!」のホームページを作ったのが誰なのかも描かれないままでした。
そこで今回は『ナミヤ雑貨店の奇蹟』の感想と、物語のカギを握るアキコはどういう人物なのか、ナミヤ雑貨店復活のホームページを作ったのは誰なのか、原作の内容をふまえて解説していきたいと思います。
ナミヤが雑貨店の復活に指定した「三十三回忌」の意味を知らない方もみえると思いますので、こちらもご参考までに。
目次
『ナミヤ雑貨店の奇蹟』ってどんな映画?
ナミヤ雑貨店という、かつて悩み相談を受けていたお店に、泥棒3人組が忍び込む。すると、届くはずもない32年前からの手紙が彼らの元へ届き始める。その手紙に返事を書くことにした彼らは、手紙の差出人と自分たちの繋がりに気がついていく。東野圭吾の同名小説を映画化した作品。
引用元:MIHOシネマ
【作品情報】
監督:廣木隆一
脚本:斉藤ひろし
原作:東野圭吾
出演:山田涼介、西田敏行、村上虹郎、寛一郎、成海璃子
主題歌:山下達郎『REBORN』
公開:2017年
皆月暁子(アキコ)とはどういう人物なのか
そもそも原作でのアキコは話の中で登場はしますが、幽霊としてナミヤの前に現れることはありません。つまり幽霊として現れるアキコは、映画オリジナルの要素なのです。アキコという存在が『ナミヤ雑貨店の奇蹟』という物語の中で重要なカギを握っていることを強調するために、幽霊という形で登場させたのだと思います。
では何故アキコが物語のカギを握っているのでしょうか。
それは、アキコの存在こそが「過去と未来」「ナミヤ雑貨店と丸光園」を繋ぐ要因となっていたからです。
アキコは山田涼介演じる「敦也」の暮らしていた児童養護施設「丸光園」の創設者であり、西田敏行演じる「浪矢雄治」とは元恋人でした。
映画の中でも出てきたように、ナミヤとアキコは当時付き合っていましたが、身分に差があったために恋愛を認められませんでした。それでも何とか一緒になりたいと願った2人は駆け落ちをしようとしますが、結局周囲にバレて未遂に終わり別れてしまいます。後に別の女性と結婚したナミヤに対し、ずっとナミヤを想い続け結婚をしなかったアキコは、丸光園の経営に生涯を捧ぐこととなりました。
ナミヤも他の女性と結婚はしましたが、おそらくアキコのことは心のどこかで想い続けていたのだと思います。その証拠として敦也たちがナミヤ雑貨店に忍び込んだ際に見つけた雑誌には、アキコの写真が挟まれて(隠されて?)いました。そしてこの写真がナミヤ雑貨店に保管されていたために、アキコは幽霊としてナミヤの前に現れたのでしょう。さらにそこへ導かれるように敦也たち丸光園卒業生が訪れたことで、過去と未来を手紙が行き来するという不思議な現象が起きたのです。
ナミヤがお悩み相談を生きがいとしていたことももちろん大きな要因ではありますが、そんなナミヤを想い続けたアキコが丸光園に関わるかつての子供たちを良き方向へ導いてあげたいと願っていたからこそ、ナミヤ雑貨店を媒介として未来と過去を繋ぐ一夜の奇蹟を起したのではないでしょうか。
謎の女性アキコは、ナミヤ雑貨店と丸光園の双方に深い繋がりがある人物だったのですね。
ナミヤ雑貨店復活の告知ホームページを作ったのは誰か
ナミヤ雑貨店で起きた奇蹟には、もうひとつ大きなきっかけがありました。それは、ナミヤの三十三回忌に雑貨店が復活するという告知です。この告知は一体誰が行なったのでしょうか。
映画では登場しませんが「ナミヤ雑貨店相談窓口 一夜だけの復活!」という告知のホームページを作ったのは、ナミヤのひ孫である「駿吾」です。
ナミヤに雑貨店の復活を託されたのは息子の貴之でしたが、復活を指定された三十三回忌よりも前に彼も亡くなってしまいます。貴之は父の遺言を叶えるために、雑貨店の復活を孫である駿吾に託したのですね。
ナミヤのたったひとつの願いが息子へ孫へと受け継がれ、まさに時を越えて叶えられたわけです。
なぜ「三十三回忌」なのか
理由は、三十三回忌法要をもって弔い上げとするためです。
弔い上げとは、今回を最後の法要とすることを言います。三十三回忌ともなると遺族も高齢となり法要を行なうのが難しくなるため、これを機に弔い上げとするのだそうです。
最後の弔いの日にナミヤは雑貨店を復活させることで、気がかりだった悩み相談に訪れた人々のその後を知っておきたかったのでしょう。
『ナミヤ雑貨店の奇蹟』の感想
ナミヤ雑貨店のポストを通して、迷える三人の青年・雑貨店の店主・お悩み相談にくる人々の過去と未来を繋ぐ。ファンタジー要素を持ちながらも、描かれる物語は非常にリアルで、誰もが悩みを抱えそれぞれの日常を懸命に生きている姿に心を打たれます。群像劇好きの私は、この物語たちがどう交わり展開していくのかと、見ていくうちにナミヤ雑貨店の世界にぐいぐい引き込まれてしまいました。
ナミヤ雑貨店を営む浪矢雄治や、「魚屋ミュージシャン」をはじめとした悩み相談に来る人物の物語それぞれにしっかりと見応えがあり、群像劇として楽しむことができました。しかし、それと引き換えに主人公である敦也たちに感情移入する余裕がなく、最終的に物語が収束し描かれる敦也たちの物語がちょっと軽く感じてしましました。もちろん、敦也たちも辛い過去を経て児童養護施設「丸光園」で過ごすことになったわけで、卒業後も思うようにはいかず悩んでいたのだと思います。山田涼介さんの演技力の高さは流石で、ナミヤからの最後の手紙を読む敦也の表情はジーンときたりもしましたが、エンディングで敦也たち3人の未来が映し出されても「あ、そうなったんだ」くらいにしか思えませんでした。
おそらく原作を読んでいれば、敦也たちのエピソードにももっと気持ちがついていくのでしょう。映画化にあたり時間の制約はありますが、ちょっともったいないなぁと思う部分でした。
とはいえ、世界観も良いし全体的にもまとまっていて、各エピソードが最終的に繋がる様は鳥肌物で、さすが東野圭吾だなぁと感じました。
映画の中で門脇麦演じるセリも歌っている主題歌、山下達郎の「REBORN」も独特な雰囲気のある不思議な楽曲で、映画の内容に非常にマッチしていました。映画鑑賞後、繰り返し聴きたくなる曲です。
原作を知ればもっと面白い
映画化の都合上、原作のエピソードよりカットされた部分があるため、少し物足りなさを感じた人は私だけではないと思います。「東野圭吾史上最も泣ける感動作」と言われるのは事実ですが、これは原作である小説のことを言っているのでしょう。映画だけでそれが伝われば一番良いのですが、原作を知ることで映画を十二分に味わうことができるはずです。
気になる方はぜひ、東野圭吾の原作『ナミヤ雑貨店の奇蹟』もチェックしてみてくださいね。