冒頭のシーンを見た瞬間、まるで実写かと錯覚してしまうほどに繊細で美しい映像に心を奪われてしまった・・・。
新海誠監督が初めて「恋」の物語について描いた映画『言の葉の庭』は、私が監督を知るきっかけとなった映画です。今まで見たことがないくらい繊細な映像表現、特に「光」の描き方に感動し、アニメでこんなにも綺麗な表現ができるのかと食い入るように映画を見たことを今もよく覚えています。新海誠監督の手がける映画は、アニメというよりも現実の景色をさらに昇華させた世界と言った方が正しいのかもしれません。
『言の葉の庭』では映画の約8割が「雨」のシーンで構成されており、新海誠監督のその特徴的な光の表現が存分に発揮されています。アニメを、現実を、さらに超えた映像表現は圧巻の一言です。そしてその中で描かれる純粋で複雑な「恋」の物語は、映像に引けを取らないほど魅了的であります。
そんな映画『言の葉の庭』の見どころを感想とともになるべくネタバレなしでご紹介します。『天気の子』『君の名は。』は見たけど、『言の葉の庭』はまだ見てないという方が、作品を知るきっかけとなれば幸いです。
また、映画の中に登場する万葉集の短歌の意味について、こちらは視聴済みの方向けにご紹介します。
▼プライムビデオでも視聴可能です。
『言の葉の庭』の見どころと感想
『君の名は。』以前の新海誠監督の過去の作品は、ポエムのような独特なセリフまわしや、ノスタルジックで多くを語らないストーリー構成など、結構クセがあるように思います。しかし『言の葉の庭』は、その中でも比較的見やすい作品なのではないでしょうか。
今作は短い上映時間ですが、その中でも観る人をストーリーの中へ引き込み、ラストシーンの感動をしっかりと味わわせる流れの巧さは秀逸です。
靴職人を夢見て未来を急ぐ高校生『秋月孝雄(タカオ)』と、ある事件をきっかけに職場に足が向かなくなってしまった女性『雪野百香里(ユキノ)』。雨の日の公園で偶然出会い少しずつ少しずつ心を通わせていく2人の物語は、劇中の大半がこの公園での2人のやり取りによって描かれています。楽しそうな時間を過ごしつつも互いが心に抱える背景のギャップに、子どもから見た大人という存在の途方もない遠さだったり、同じ場所にいるのにどこか現実味のない空気感だったり、人の心の複雑さをひしひしと感じ、思わず感情移入してしまうのです。
そして、新海誠監督が3人目のキャラクターと言う「雨」が、非日常的で儚げな特別感を感じさせ、2人の姿やセリフを印象的なものにしているのです。映像に合わせて急ぎ足に流れるピアノの音も物語の展開をうまく表現していて、長編映画を見ているかのような濃密さがあり、本当に46分の映画だったのかと錯覚してしまいます。
映像・音楽・セリフ。この3要素が一体となって描く『言の葉の庭』は、その短い時間に新海誠監督の良さがぎっしり詰まっている作品と言えるのではないでしょうか。
タカオもユキノも当然私たちとは違う存在なのだけれど、「あぁ、子どもの頃ってこう考えていたよな」とか「大人になると進みたくてもなかなか歩き出せないことってあるよな」とか、ところどころ共感できるような要素があって、どちらの立場に対しても「そうだよなぁ」と心の中で頷きながら、私はこの映画を観ていました。
「なるかみの〜」の意味とは
※ネタバレとまではいきませんが本編の重要なシーンに触れる内容ですので、まだ映画を観ていないのでネタバレは見たくないという方は飛ばしてください。
『言の葉の庭』のセリフには万葉集の短歌が使われていますが、その言葉に込められた想いについて簡単ではありますが、以下にまとめてました。
ユキノとタカオは何を思い、その言葉を口にしたのでしょうか。
・ユキノの言葉
「雷神(なるかみ)の 少し響みて さし曇り 雨も降らぬか 君を留めむ」
【意味】雨が降ってくれれば、あなたのことを私のところに留めておけるのに。
・タカオの言葉(ユキノの言葉の返し歌)
「雷神(なるかみ)の 少し響みて 降らずとも 我は留らむ 妹し留めば」
【意味】雨なんて降らなくても、あなたが望むのなら私はここにいるよ。
なんて綺麗な言葉なのでしょうか。そしてこの言葉はまさに『言の葉の庭』という映画そのものを表現していますね。五・七・五・七・七というたった31文字に、映画一本分の想いが込められていると思うと、このセリフひとつが2人にとってどれほど大切な言葉となったのか考えさせられます。
個人的には『天気の子』『君の名は。』よりもおすすめ!
もちろん『天気の子』や『君の名は。』も大変良い作品なのですが、私個人的には『言の葉の庭』も大ヒットした2作品に負けないくらい素晴らしい作品だと思います。また、46分と映画の時間も短いですので気軽に見れるのではないでしょうか。(内容は結構濃厚ですが・・・)
興味のある方もない方も一度観てみる価値のある映画ですので、機会があればぜひチェックしてみてくださいね。
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